会長 あいさつ
菅野格朗

会員・関係いただいている企業の皆様、いつも本学会の活動に大きな支援を賜りまして誠に有難うございます。宮ノ下 明大 前会長より引き継ぎ2022年1月より当学会の会長を務めてまいります菅野格朗(カンノ カクロウ)と申します。学会運営には不慣れな面がございますが、精一杯 学会の発展に尽力してまいりたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

当学会は1979年に森八郎博士が中心となり、シロアリだけでなく様々な害虫を研究する家屋害虫研究会として発足しました。その後、日本家屋害虫学会として長年にわたり活動をし、2011年に害虫だけではなく、様々な生物の問題を取り扱う学会として、都市有害生物管理学会と改称し、2022年で研究会発足から42年目を迎えます。

2020年から日本国内でコロナウイルスが問題となり、学会活動が制限され当学会も第41回年次大会は中止、第42回大会はWebで開催をいたしました。その中でも様々な生物の活動は止まることなく、コロナ禍だからこそ問題が表面化したこともありました。そもそも、コロナウイルスそのものが身近な生物の問題であり、消毒作業や消毒に使用する薬剤の情報についても、学会の研修会やシンポジウムで取りあげて会員での情報共有をしてきました。

当学会は革新的な発見だけでなく、身近ですがあまり知られていない生物の様々な情報に注目し、世に発信することで気軽に知ってもらうことを重要視しています。そのため、会員の皆様に論文・報告として発表しやすい場を提供してまいりたいと考えております。また、学会運営の見える化を行い、だれでも学会運営に携われる学会の素地を作っていきたいと考えておりますので、皆さまのご協力をお願い申し上げます。

2022年1月24日

第41回大会・総会の会場開催を中止した件
事務局長 杉山真紀子

啓蟄の候。皆様、如何お過ごしでしょうか?
今、地中では、種々の生物たちが明るい地上での春に向かって準備運動を開始している時期です。一方、地上では、新型コロナウイルスが急激な勢いで世界を駆け巡って、新年の始まりには誰もが想像しなかった有様になっています。
日本では2020年の新年が明けて半月あまり過ぎた頃から、中国・武漢において新型コロナウイルスの感染による肺炎が広がっていると、インターネットに周り始めました。
まさにこのような社会現象における良策対処の業界で活動している当学会の一員として、私は早くから広い範囲での情報収集、専門的な知識の直接ヒヤリング、今後の予想などの知識集めに努めておりました。そのうちに、わが国でもどんどん感染者が増え、首相が国民に、集会や職場そして学校も、人が集まって感染を広げるような事を中止する要望を出しました。直ちに当学会の首脳陣たちで、3 月 14 日に予定していた第 41 回大会・総会の開催についてメールにて意見交換を致しました。そしてこの際は、会員の皆様には、現場での実作業を優先にしていただき、かつ感染の拡大防止に協力することで、今回の大会は、「会場に集合しての開催は中止して、要旨集の発行・配付を持っての開催とする」ことに決定いたしました。宮ノ下会長から、全会員、参加者全員、ホームページ、業界新聞に、当学会の大会・総会の中止する旨を急告知いたしました。
第 41 回大会の為に、今までの研究成果および現場での事例報告など貴重なご発表をお申し込みいただいた方々、ご多忙な中、特別講演を快くお引き受けいただいた先生、また参加申込みされていた会員と非会員の皆様、ご協賛いただいた企業の皆様方にご理解を頂いて深く御礼申し上げます。
世界の多くの都市が今、「沈黙の都市」と化しています。当学会員の皆様またご高配いただいている皆様のパワーが今こそ一丸となって、各々の都市に一分でも一秒でも早く人々の明るい声と活性が戻る事を切に願っております。
本来ならばこの学会の第 41 回・大会・総会が盛大に開催されているはずの三田の慶応のキャンパスの 3 月 14 日の光景をご覧いただいて、来年は、また此のキャンパスで当学会の大会でお会いさせていただけますことを楽しみにしております。
皆さまのご健康と益々のご活躍をお祈り申し上げております

①正門・守衛さんのすぐ横に、大会は中止の看板がある
②正門・中止の看板
③東門・エントランス中央に、大会は中止の看板がある
④東門・中止の看板
⑤慶大キャンパス内・演説館(重要文化財)の前にある 福沢諭吉先生の銅像
⑥中央に旧図書館の入り口がある
⓻新図書館の前の広場・普段は学生が大勢いるが今日は誰もいない!冷たい雨が静かに降っている
⑧東門の入り口広場・普段は。この時期は卒業生たちが集まって記念撮影をして賑わっているがなんと今日はこのように静か!
来年は、例年の通りに卒業生たちで賑わい当学会も開催いたしましょう!!!

ニブラーズ,かじる虫たち① コクゾウムシは何をかじってきたか
宮ノ下明大

会⾧として何か書いてくださいと言われたものの,気が利いた挨拶などは苦手なので,私の研究対象である害虫やその周辺について,何回かに分けて思うままに書いてみたい.これは論文ではないので,文献等は詳しくは触れない方針にしたいと思う.どうぞそのつもりで 気楽に読んでいただけると有り難い.タイトルは,「ニブラーズ(Nibblers),かじる虫たち」とする.私が毎日相手にしているのは食品をかじる虫たちだからである.

コクゾウムシを見ないワケ
コクゾウムシはたぶん食品害虫のなかで最も有名な虫だ.しかし,ミンミンゼミやアゲハチョウのように普通に出会える虫ではない.毎年,「30 名くらいの大学 3 年生に,コクゾウムシを見たことがあれば手を挙げてください」と尋ねるのだが,手が挙がるのは 1 名いる かいないかである.もし,コクゾウムシを見たければ,玄米貯蔵庫か精米工場に行くとよい.これらの場所では普通にいつでも見ることができる.不思議なことに,その精米工場から出荷されたお米にコクゾウムシの成虫が混入することは滅多にない.工場には色彩選別機があり,この装置によって不良米と共に黒っぽい虫の多くは除去される.だから大学生はコクゾウムシを見ることは滅多にない.

フルーツをかじるコクゾウムシ
日本に住んでいるとコクゾウムシはお米の害虫だが,アメリカではトウモロコシ,ヨーロッパでは小麦の害虫である.イタリアから輸入されるスパゲティに,コクゾウムシが混入することは珍しくない.あの細いパスタの中をコクゾウムシの幼虫がかじり,成虫が羽化する状況を見ると不思議に感じるのは,私が日本人だからだ.最近,ブラジルでは,果樹園で実っている収穫前のモモやリンゴ果実に,コクゾウムシが飛んできて卵を産み,幼虫が内部をかじって一部は成虫になることが報告された.コクゾウムシはフルーツの害虫でもあるのだ.この事実に衝撃を受けた私は早速リンゴを買ってきて,日本のコクゾウムシの成虫を放ってみた.成虫はリンゴ果実をかじったが,そのリンゴで幼虫が育つことはなかった.新鮮な果実をかじるコクゾウムシは普通ではない.ブラジルのコクゾウムシにいったい何が起こっているのか?昆虫学者としてはワクワクする話である.


縄文土器の影にコクゾウムシあり?

縄文土器の中から検出されたコクゾウムシ
日本人にとって,お米とコクゾウムシは強く結びついているイメージがある.そのため,日本へ稲作技術が伝わってきた時に,コクゾウムシもお米に混じって一緒に侵入したと考える人が多いのでは?実は私も何かの本でそのような説を読んだ覚えがあった.もちろん,そうだった可能性はある.しかし,そうじゃない仮説について考えたことがあるだろうか? 熊本大学の小畑弘己教授は,縄文時代の遺跡調査において,縄文土器の中からコクゾウムシが多数発見されることを報告している.土器を作る粘土に混入したコクゾウムシは,焼かれると体は燃えて消失してしまう.しかし,虫の形が粘土にスタンプされたように残り,土器に小さな穴として発見される.これは圧痕と呼ばれ,この穴にシリコンを注入して固めて取り出すと,コクゾウムシの形がスタンプされた状態となる.走査型電子顕微鏡を使ってこのシリコンのスタンプを観察すると,コクゾウムシの形が現れるのだ. 2010 年 2 月に,種子島にある縄文時代早期の三本松遺跡の土器から,コクゾウムシの圧痕が検出された.このコクゾウムシ圧痕は 1 万年前の縄文土器にあり,稲作技術が到来したと考えられる弥生時代よりもずっと前に,コクゾウムシが日本に分布していたことを意味している.お米とは無縁のコクゾウムシが縄文時代には存在したのだ.ではコクゾウムシは何をかじっていたのか?縄文時代に貯蔵された食料などを考えたとき,それはクリやドングリと考えられている.過去の文献を調べると,ドングリ類でコクゾウムシ,ココクゾウムシ,グラナリアコクゾウムシが発育することがわかっている.ドングリで育った成虫の大きさはお米で育ったものよりも大きいことがわかっていた.そして,縄文土器の圧痕から推測されたコクゾウムシの大きさも,お米で発育した現代のコクゾウムシよりも大きかったのである.その後,青森県の三内丸山遺跡から出土した縄文土器からもコクゾウムシの圧痕は発見され,続々と日本の縄文時代の遺跡から発見されている.これも昆虫学者としてワクワクする話だ.では,なぜコクゾウムシだけが縄文土器に混入しているのか?この問題は昆虫学ではなく,考古学の領域であるが,小畑教授の仮説の紹介は,また別の機会にしたいと思う. 小畑教授との共同研究の中で,私はつくば市の公園に落ちていたクヌギ,コナラ,マテバシイ,スダジイのドングリを拾い集めた.そして,研究室で飼育している現代のコクゾウムシ成虫に産卵させ,発育を確認する実験を行った.すると多数の成虫が次々にドングリから羽化した.縄文時代のコクゾウムシは,ドングリやクリをかじっていたと私は思っている.